top of page

福祉サービスにおける組織と運営について

参考リンク

 現在、日本では国や地方公共団体、社会福祉法人などにおいて福祉サービスが提供されています。「福祉サービス」は、1 9 9 0年の社会福祉事業法の改正により、はじめて法的に定められました。これまでの社会福祉実践の対象は、「援護、育成又は更正の措置を要する者」という限定的でした。しかし、医療の発達や少子高齢社会が進む中で福祉ニーズが多様化し、それに対応するため対象が「福祉サービスを必要とする者」と一般化され、広い範囲へと変わった。さらに介護や保育などの分野を新たな産業として位置づけ、限定した事業主体から、民間企業も含めた様々な主体参入へと規制緩和が大きく進展していきます。

1.福祉サービスの組織、経営の概念

(1)福祉サービス

 福祉サービスとは、社会福祉法で謳われている「社会福祉を目的とする事業」の具体的な行為でです。「社会福祉を目的とする事業」は、社会福祉法、介護保険法、障害者総合支援法などの社会福祉関係法令に基づいて行われる事業及びその他の社会福祉を目的として行われる事業をいいます。

 2 0 0 0年の社会福祉法制定において「福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉の推進を図る」が明記され、「福祉サービス」という用語が定着するとともに、福祉サービスの対象が、「対象者」「処遇を受ける者」から「福祉サービス利用者」と明記されました。社会福祉実践において使われてきた「処遇」という言葉は、サービス供給者側の言葉であり、業界用語です。しかし、対象が一般化され、サービスを必要とするならば誰でもサービスを受ける事ができるようになり、利用者側の用語として「福祉サービス」が使われるようになったと考えられます。

  

(2)組織

 組織とは、特定の目的を達成するために専門的な役割と持った部門で構成される集合体のことでです。1 9世紀以降、科学技術の発達により、大規模な組織が生まれました。大規模な組織では、意思決定や情報伝達が極めて重要であり、組織構造や機能の調整のあり方、リーダーシップ、集団・個人の行動が注目されるようになってきます。

 組織の構造を決定する際に、①専門化の原則、②権限・責任一致の原則、③命令一元化の原則、④統制範囲適正化の原則、⑤例外の原則が重視されます。

専門化の原則:業務を分業化し、仕事の能率を高めることでです。個々の従業員の熟練度は高まるが、多様な業務対応が困難になります。

権限・責任一致の原則:従業員の与えられた権限と責任が等しくなるようにすることです。権限のほうが大きければ無責任になり、責任の方が大きければ負担が大きくなります。

命令一元化の原則:指示・命令系統が単純で明確である必要です。

統制範囲適正化の原則:一人の管理者が直接管理する部下の数に限りがあるため、管理できる範囲に組織を設計する必要です。

例外の原則:手順通り進んでいる定型的で反復的な業務は下位の者に任せ、管理者は例外的で意思決定を含むような高度な業務に専従すべきであるというものです。

(3)経営(経営管理)

 経営(経営管理)とは、組織の使命や目的を明確にしてその達成に向けて意図的な活動をすることです。そのために、組織体として活性化され、コントロールされた働きにより、組織内外の状況を判断するとともに、経営資源を有効に活用して、組織の目的を達成することです。

 社会福祉施設の経営(経営管理)を行うための経営資源は、「ヒト(人的資源)」「モノ(物的資源)」「カネ(財源)」「トキ(時間)」「シラセ(情報資源)」が必要でです。経営(経営管理)は、これらの経営財源を効果的に活用し、提供する福祉サービスの量と質を確保することです。

2.今後の福祉サービスにおける組織と経営の必要性

 施設処遇中心であった頃は、利用者よりも施設側の都合が優先されるサービスが提供されてきた。施設が定めた固定的なスケジュールのもと流れ作業的に行われていたため、現場リーダーより下位の従業員が業務を行い、現場リーダーは従業員の制御中心であり、大規模でない施設が多く、組織の構造や機能を考える必要はありませんでした。

 しかし、近年では、施設の都合に合わせた流れ作業的なサービスは否定され、利用者一人ひとりを尊重したケアが求められるようになってきました。その中で一つひとつのケアの単位が小規模化し、利用者の身近な地域に展開するようになり、サービスの多様化、多様な組織の考え方や捉え方が求められるようになってきました。また、福祉サービスの提供は社会福祉法人が主体であったが、社会福祉法の制定及び介護保険法の制定を機に「民間活力を活用し、競争を通じてサービスの向上を図ることが期待される」として、民間企業を含め様々な組織が福祉サービスへ参入しやすくなりました。そのため福祉サービス事業は、新たに大きく拡大する市場として注目され、規制緩和により多様な経営主体が参入し、様々なサービスの提供が可能となりました。

 このような福祉サービス事業の競争を勝ち残っていくためには、サービスを提供する組織として、①利用者、②経営理念、③サービス提供プロセス、④組織構成、⑤コスト管理を要素とした経営が必要であると考える。組織の経営に必要な要素を次に示します。

①利用者
 利用者の利益の保護、推進を図り、利用者が満足のいくサービスを効果的・効率的に提供することが求められます。

②経営理念
 経営理念は、組織が何のために存在し、どの方向へ向かい、どのような方法で経営を行うかを示したものであり、組織運営の拠り所、原点を指すものでです。

③サービス提供プロセス
 利用者のニーズを的確に把握し、質の高いサービスを継続的・安定的に提供する必要がです。そのため、サービスマニュアルを作成して、サービスにばらつきがないように標準化を図る必要がです。

④組織構成
 専門分化・役割分担を行い、職員の専門性・職責について明確にする必要がです。また、権限や指揮命令系統を明確にすることで、職員が業務を進めやすい環境を整える必要がです。

⑤コスト管理
 組織の経営にあたって、入支出や決算についての分析などコスト管理が重要になってくる。コストを意識しながら、サービスの質を向上させるために、創意工夫と経営努力を行うことが求められます。

bottom of page